こぼれたなみだ








「お前さ。そーゆー奴なんだな。」
失望したわけでなくただ思った事を口にした。


そんな何気ない一言に、
学ランを来た古泉は恐ろしく傷ついた顔をした。

しかも泣きそうな目というオプション付きだ。



わけがわからん…が。
ほっとくわけにもいかん。




オレは(おそらく)長門の作り出したこの世界選んだんだ。
何故かとは聞いてくれるな。正直なところ自分でも説明できないでいるんだからな。

だからというわけでもないが、
これからオレはこちらのSOS団とうまくやっていきたいし、
いかなきゃいけないわけだ。


それにこんな顔をされると……まあ少なからず滅入るというか参るというか…。


オレ…なんか悪い事言ったのか?

なあ、こっちの古泉。


######



「そーゆー奴なんだな。」


彼の言葉に異常にショックを受けた。
泣きそうになるほどに。

何故かわからない。
数日前初めて会った人間の言葉にこれほど動揺するなんて…。

彼は僕の好きな人の心を一瞬で奪った恋敵とも言えるはずなのに。


そうだ。
そうなはずだ。

だけどこうやって二人でいる事に妙に居心地のよさを感じていた。
それは事実と認めざるをえなかった。


だけどこんなに辛く感じる程に、彼の存在は大きくなかったはずだ。

第一今の言葉のどこに僕は傷ついた?


幻滅されたと感じたからか…決めつけられたと感じたからか…それとも。


『彼の知ってる古泉』と
比べられたから…?


比べて違うと…?


ぼろり


「おい…っ古泉?!」

音が出そうなくらい大粒の涙が零れ出した。


#######


おいおい、何が起こったんだ?!

こいつ本格的に泣き出した。
嘘だろ?あの古泉が泣く?


だが嘘でも夢でもなんでもない、
古泉一樹という俺よりでかい男は今目の前で泣いていた。


マジでわけがわからん!


「おい古泉?!どうしたんだよ!どこか痛いのか?!」

俺は古泉の正面に回り込み肩を掴んだ。
古泉の涙は零れ続けている。その姿は…ええい、やっぱりその、絵になっている。

しかも見慣れてないぶんやたら心臓にくる。


こうなると自意識過剰かもしれんが、もし事実なら謝罪が必要だ。

そう思い俺はまた質問を口にした。

「それとも…なんか俺…
悪いこといったのか…?」


言った次の瞬間。


俺の視界は突然色を変えた。

「こいず…っ!」

抱きしめられたのだと、
少し時間がたって気付いた。



######


僕は気づいたら彼を抱きしめていた。

僕は何をしているんだ?

そう思っても離す気にはなれない。


どうしてこんなに悲しい?
どうしてこんなにこの温もりが欲しい?


温かい体温から欲望がにじみ出てくるのが分かった。


ああ、この人のそばにいたい。
この人が欲しい。

どうして涼宮さんじゃなくて、彼なんだ。


#####

往来のど真ん中で、急に抱きしめてきやがった。

何を考えてるんだ?こいつは。
そしてこいつを振りほどかない俺は。

「こい…ずみ?」
戸惑いのままに聞いた。

「…。」
返事はない。
多分こいつも混乱してるんだろう。
何で分かるかって?
こいつの腕がやたら震えてるからだ

「おい、古泉?」
何か怖がってるのか?

俺は何故かそう思った。

だから思ったままにまた聞いた。

「お前、何か怖がってるのか?」

びくり、と抱きしめてくる身体が震えた。


####

怖がってるのかと問われた。
それで初めて、自分が感じている恐怖に気づく。


「…僕は…。」
あなたの知っている僕と違う、と言われたくない。

違うから嫌だ、と思われたくない。

帰りたい、と言われたくない。

そんな言葉を聞きたくない。




「僕は…僕、です。」

「…はあ?」



ようやく搾り出した声は、意味を為していなかった。

ああ、こんなことでは幻滅されるかもしれない。



「…僕は…。」

焦って、言葉が出てこない。
どうしよう。どうしたら…。

すると僕の背中をポン、と優しく彼が触れてきた。


「古泉、落ち着け。
ちゃんと聞いてやるから。


…泣くな。」



…言葉が、優しさが滲みてくるようだった。


#######


何を焦ってるのかわからんが、落ち着くように言った。

すると、古泉はゆっくり口を開いた。


「僕は…あなたの知らない僕…古泉一樹です。 でも…。」


「…でも?なんだ?」



「僕を…嫌わないで…帰らないで…

いなくならないで…くだ、さい…。」


たどたどしい台詞に、俺はまた驚かされた。


「古泉…。」

「お願いです…ここにいてください。」

その言葉は。
俺に本当の決断をさせた。


「…分かったよ。

 俺はおまえのそばにいる。

 今 決めた。」

#######

「本当…ですか?」
「本当だ。」


耳を疑いたくなるほど
嬉しい返事が返された。

嘘を言っている目じゃない。


「マジ…ですか。」


「えらくマジだ。」


僕は嬉しさのあまりまた彼に抱き着いた。

「こっ古泉!分かったら離れろ!」

「嫌です♪」


ああ、こんなに幸せだと思うのは生まれて初めてだ。

「いいから!ここは公道だ!」

「あ…はい…。」


そういえば道端だった。
名残惜しいけど、と僕は彼から離れた。

改めて満面の笑みで彼の顔を見ると、彼は驚いた顔をしていた。
なんだろう?


「…古泉、お前まだ泣いてるのか?」

「え?」




言われて気付く。
まだ涙が止まっていない。

おかしいな。
こんなに嬉しいのに。
嬉し涙というわけでもないし。
完全に僕の感情とは違う涙だ。


「…どうしてでしょうか。」


「医者でも行った方がいいんじゃないのか?」


「ええ、そうですね。」

言いながら僕は気付いた。


これはきっと。

「古泉一樹」の。




「…すみませんね。」


「?何か言ったか?」

「いいえ。」



彼に笑顔を向けながら。



まだなみだはこぼれていた。




                      end




携帯サイトにて1000ヒット記念にリクエストをくださいました、氷見月夜様に捧げました。
消失古泉×キョンです。

古泉的にはバッドエンド、でも消失古泉は幸せです。
…ある意味ダークなエンドだったかもしれません;;

氷見月様、改めましてありがとうございました!



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